物が燃えること

今日も太陽が容赦なく大地を干す。
これでもかと注ぐ陽光は既に朝のそれではなかった。
今日も世界は明るい。
連日溜まったキャンパス内での鬱憤も汗と一緒にじんわり出て行くようで気持ちが良い。
赤土の未舗装路を歩きながら、空の家で会える子供たちを思う。
先日行ったときの子供たちの反応がよみがえる。

言葉は通じないけど、僕の姿を見るとニコニコ、きらきらして手を取ってくる。
両手にしがみつかれ、僕の持っているブリーフケースを持ってもらう。
やっぱり続けることは大事なんだなぁ、と南アに来て強く思うようになった。
日本に居たときはそれほど「継続する」ということを意識したことはなかった。
でもここでは毎週三回でもいいから通うことで、顔を覚えてもらい、僕が来るのを楽しみにしてくれるのを感じる。

もうかれこれ空の家に通い始めて3ヶ月が経とうとしている。
途中休暇があり、一ヶ月空けてしまったが、再び始めるときもすんなりとなじんでいった。
今では僕の言いにくい名前「KATAOKA」で呼んでくれるようになり、ようやく僕と言う存在が受け入れられ始めた感じだ。

そんなことを考えながら、マンゴーやライチなどの果樹が赤土に投げる青い影を探しながら歩く。
空気が乾燥しているせいか、日陰は日中でも涼しい。
だからみんな日陰が好きで、木の下に行けばよく誰か居る、のんびりと。
ひとたび赤から青へ足を踏み入れると、汗ばんだ黄褐色の肌に涼風が走り心地よい。
しかし歩いている僕にはそれは一瞬の楽しみでしかない。
次から次へと青い影を探しながら歩いていると、前方から腕を広げて抱きつこうとしてくる子供が居る。
日陰に居る彼の黒目がちな目だけはきらきら光っている。
もうそんな目で抱きつかれたら、おじさんは嬉しい。
知らない子供だけれども、いつも同じ場所を通る僕を見ていたのかもしれない。

そんな風にまるで下校時の小学生のように影を踏みながら歩いて空の家に着く。
あれ、誰も居ない。。。
と思って建物の中を除くともう既に数人が集まっている。
バルコニーにもちっこいのが二人ほど居て、にこにこ抱き抱きしてくる。
もう、ぐへへ〜。

まだ子供の集まりが悪いから、先日の続きで掛け算九九表を完成させることにした。
自分たちで一枚一枚書かせて81個それを並べる。
完成する前からあちこちで「2×6=12、2×7=14、、、、、」と声がする。
この表ができる前まではA4の紙に書いた九九表を使っていて既に声に出させて覚えさせることをしていたせいか、
この表を前にして自然と口にするようになっているのかもしれない。
こっちとしてはそれは一つの成功だ。
空の家には5歳から16歳までの生徒が集まる。
初めはどうやっていけばいいのかわからなかった。
なにせ生徒同士のレベルが違いすぎているからである。
でも一度実力テストをさせてもらって分かった。
学年によらず、計算能力や図形などの空間把握、理科に関してはあまり差異がない。
15歳でも掛け算はできないし、分数の概念もつかめていない。
これが殆どの生徒の平均的なものかは推し測りかねるが、
少なくとも特別な例ではないことは我がキャンパスを見ていて歴然としている。

日本の教育者の中にも九九は覚えなくてもいいとか言う人もいるが、
僕はそうは思わない。確かに数学者の中に掛け算覚えていません、と豪語する人もたまに居るようだが、
数学者のやっている数学と僕らが日常使っている算数は話が違う。
それから九九はあくまで一つのツールであって、それを使ってこれから学んでいく論理的な思考をすることができるのだ。
確かに九九と言うツールはなくても論理的な思考はできる。
ただしこれから広がる論理ゲームの世の中を渡っていくのに、あって損はない。
たった36個の数(*)の関係を覚えるのを怠ることで生じる弊害を考えると、やっぱり覚えるべきだと思う。
(* 九九は81個あるが、そのうち半分ほどは2×3=3×2のように数字を入れ替えても答えが同じになることを知っていれば、覚える必要はない。
さらに1の段は1にかけた数そのものが答えになるので覚える必要はない)
なんてったってあんなに数居るポケモンだって数日で覚えてしまうくらい脳に余裕があるんだから。子供ってやつは。
だから今はとにかく口に出して言わせるようにして覚えさせている。
覚えた後で今度は掛け算の概念を説明するつもりだ。
束がいくつでトータルは?という掛け算の概念が分からないと実用できないので。

今日は土曜日なので理科の日。ということで「ものが燃える」ことについて、実験、考えさせた。
瓶の中のろうそくはいずれ消えることを見せて。
何でだろうね?と。
そこは年長者が「空気がないから」と答えてくれる。
そう、物が燃えるには空気が必要。
それから実際に蚊取り線香の煙が瓶の隙間から吸い込まれるのを見せて、空気が燃焼に使われていることを実感させた。
本当は空気じゃなくて酸素が重要なんだよ、と教えたいが。どうしたものか。。。
次回はコーラから二酸化炭素とってきて、吸わせてみる。明らかに空気とは違う何かだと分かってくれるだろう。
それでその中でマッチが燃えるかどうかとか。
ビニール袋に息を吐いてそれを吸ってまた吐くを繰り返させて、苦しくなることをやってもいいかも。
そういえば子供の頃、ドラッグをやっているかのごとく、何回くらい吸って吐いてやってけるか試したのが懐かしい。
そのうちやっぱり苦しくなってくる。それでも徐々に酸素がなくなるものだから、なんだかもう少しいけるかも、、、と
その境目をたゆたいながら独り夢想の世界へ。ある意味ドラッグに近いかも。。。

チャーリーさんとは最近色々な話をする。
といってもチャーリーさんが話すばかりで僕は殆ど何もいえないのだが。
あぁ早く対等に英語で会話できるようになりたい。
任地周辺の学校の現状に始まり、家庭環境、さらに地域コミュニティの話。
キャンパスに居ては見えなかったものが続々と出てくる。
彼はもう南アに来て6年目にはいるので色々な事情を知っている。

チャーリーさんは3月でビザが切れるそうで、今申請しているが、そこはやはり南アらしく遅々として進まないでいるようだ。
滞在ビザ申請に僕が空の家で活動しているのが結構いいアピールになるようで、なかなかいい互恵的な関係を築けている。