お手伝いさんの不思議

以前にも書いたが、家のことを手伝いに来てくれる生徒がいる。
三人の女生徒なのだが、三者三様の要求をしてくるので面白い。
1.何も要求しない(グラシアス)
2.昼ごはんを要求する(バーバラ)
3.金を要求する(ムプメレーロ)
一人が金を要求すれば三人とも要求するようになると思っていたので不思議だ。
確かに金でやるのが一番後腐れなくていいのかもしれない。
でも、そもそも僕が金という柵から開放されたボランティアという立場で来ているので、
金ですべてを解決することはあまりしたくない。
まったくの異邦人が金ではない何かでどこまで人と繋がれるのかを試したいというのも理由のひとつだ。

でもみんなよくやってくれる。掃除と洗濯は僕がやるよりきれいになる。
その間は友達としゃべりながら楽しそうにやってくれるので、
やってもらっているこっちとしても嬉しい。
ムプメレーロは「あー汚い、汚い」とか「あんたたちは汚い好き」と
色々と悪態をつきながらも楽しそうにやるからまた面白い。
とにかく口が閉じるときが無く、賑やかだ。

もう一つ不思議なこと、
それは誰か一人が働いているとき、他の子はそれを手伝わないでテレビを見ていたりする。
手伝わないの?と聞くと、今日は私はやらない、と。
暗黙のうちの取り決めがあるのか、僕には見えないルールが存在するように感じる。
まだまだ分からないことだらけだ。

仕事が終わると、みんなで昼飯。
で、また不思議なことが起こる。
どこからとも無く、名前も分からない関係ない生徒が混じってテーブルに座って、
誰よりも先に僕のパンを勝手に食べているのだ。
最初の頃の僕だったら、
「誰だよ、お前!勝手に人のものを食うな!」って言って追い返していたかもしれない。
でも今はそんなことでは動じなくなった。
「誰だろう?一緒に食べたいのかな」と思うだけで、一緒にテーブルを囲める。
こういった彼らの一連の行動の根底には、
仲間はいろんなものを分け合うという考え(シェア魂)があるように感じられる。

かつてこんなことを言った男子生徒がいる。
「ここではいろんなものを友達同士でシェアするんだ、ガールフレンドもね」
最後の部分を除けば、なかなかいいシステムだな、と思う。
冗談っぽく笑っていたが、女生徒から男の浮気が多いことを聞いていたので、
男子生徒の言っていたことがけっこう真実なのかな、と思う。
うむ、でもガールフレンドまでシェアって究極のシェアであり、
男の勝手な言い分でもあるかな。

食べ終わったら、数学いや算数の小授業。
今回はとことん四則計算&単位変換。
最初は計算の順序も分からなかったけど、
何度も問題を解かせていくうちに少しずつ掴めてきたようだ。
計算順序や単位変換はルールなので何度も解かせて覚えてもらうしかない。
小学生の頃、退屈で大嫌いだった計算ドリルの重要性が今になってわかってきた。
でもこんな退屈な授業も解けるようになる喜びというものがあるようで、
問題をクリアできるようになると、もっとやらせて、というようになった。
こういった生徒の変化を見るのは、先生としてはとても嬉しい。
こっちの人は日常生活に単位が入り込んでいないようで、概念を感覚としてつかんでいない。
「君の身長は何cm?」と聞いても答えられない。
だからまずはmとcm、mmの大きさの概念を感覚として理解してもらった。
1mは左肩から右手の先くらいまで、1cmは小指の幅くらい、1mmは爪の厚さくらい。ってな感じで。
日本人(僕の場合)は単位を変換するとき、そのものの長さなり重さなりをイメージする。
そしてそれが変換したい単位にしたらどうなるかを考える。だから大きな単位ミスはしない。
1mが1000mmというのを数字として覚えるのもいいけど、
イメージというのはいろんな所で助けになる。
単位に関してはさすがに一日でどうこうなる問題でもないので、また今度。

算数を終え、彼女らが家に招待してくれたので、
生徒の生活がどのようなものかを見るために行ってみた。
彼女らは友人同士で家をシェアして生活している。
家賃は月R200(2500円弱)でシャワーなし、水道なし、トイレは離れ。
いかに僕らの住まいがいいかを教えてくれる。
4畳半くらいの狭い部屋だが、綺麗に掃除されており、
「ふむ、だからあんなに掃除が上手なわけだ」とこっちの人の綺麗好きを納得させてくれる。
シャワーはたらいに入って、体をタオルで拭くようにするようだ。
水は近くの水場に汲みに行く。

家の前で座って話していると、バーバラがおもむろに爪切りを差し出してきた。
僕のサンダルを履いた足を見たようだ。
さっき見てそろそろ切らないとなと思っていたので、本当にナイスタイミング。
と同時に、けっこう生徒たちは身なりを見てるんだな、と思い、
あまりひどい格好は出来ないな、と思った。
でも爪きりがまた切れないんだ。
で苦闘していると、ムプメレーロが爪切りを奪い、
「足を出しなさい」と有無も言わさぬ体でいうではないか。
ついそれにつられ足を出すと、僕の足の爪を切り始めた。
そんな不思議な光景をぼんやりと眺めながら、
あれれ、俺はいったい何してるんだ?と恥ずかしくなった。
南アの女性は強い。下手に弱気でいると食われてしまいそうだ。
でもそんなやり取りで気づいたことがあった。
こっちの人の爪って薄くて柔らかい。
でも足の裏はとても硬い。
裸足で歩けるわけだ。