鼻歌に潜む思い

誰もいない職員室でテストの模範解答を作っていると、
隣の部屋から自信と生気に満ちた歌声が。。。
誰だ?と思ったがすぐに察しが付いた。
Sizwe(シズエ)君だ。
彼は赴任して初めて知り合った生徒である。
当時は生徒の育てているキャベツがもりもりと成長している時期で、
彼は毎日夕方になると水をやりに来ていた。
鼻歌交じりに水をやる彼は、どこかいつも幸せを身に纏っている。
夕日に鼻歌が溶け込んでいた。
職員室にやってくる時もそうだ。
一人ひとり先生にニコニコと挨拶するのだが、その挨拶も踊っているように楽しげだ。
先生に仕事を任され職員室で仕事しているときも鼻歌が漏れるし、
追試を職員室でしているときも、先生たちのギャグにこっそりウケている。
またその姿がなんとも慎ましく、幸せそうでいい。
なんというか、いつも「ついさっきいい事があった」状態なのである。

こういうわけで、シーンと静まり返った校舎に響く歌声がシズエ君のものだ、
ということを察するはさほど難しいことではない。
行ってみると果たしてシズエ君だった。
「何を歌っているんだい?」
「教会で歌う歌さ」
「神を讃える歌か?」
「そう」
「どんな内容?」
「君は仏教徒だから言っても分からないさ」
少しだけ、もや〜っときた。

宗教は分かり合えるものではない。
でも相手を分かろうとするのは大事なことだと思う。
異教徒には僕らの(崇高な)考えが分かるわけがない。
という態度が少しだけ残念だったし寂しかった。
確かに僕の聞き方が安易だったこともある。
彼らが最も大事にするものを軽々しく聞いたことは僕のミスだ。
僕らのように違う文化圏で生きている人間はどちらかと言うと好奇心が強い方だろう。
違う考えの人がいれば、どんどん聞いてみたくなる。
一方、自分の生まれ育った場所から出たくないと思っている人はいくらか保守的だろう。
シズエ君も外へ出て行こうとするタイプではない。
自分の生まれ育った場所で、自分の価値観を根底から否定する人々のいない、
ある意味安定した環境を大事にし、幸せに生きる人だと思う。
そういう人にとっては僕らのような異端者は目障りだし、
安易に自分たちの世界に入ってこられるのは迷惑なのかもしれない。

少し残念に思ったが、自分の軽率な言動を見直すことができたから、まぁいいか。