パセリの夢

今日は生徒が殆ど教室にやってこなかった。
集まったのは一時間目だけ。
最近は生徒会の選挙があったせいか、授業がまともにできない。

そんなこんなでムニシさんと二人で日本の写真を見ながら、ちょっとした日本紹介をした。

生徒がキャンパスにいなくなってしまったので、今日は早めにあがる。
パセリの部屋を覗くと、あまりの暑さのせいかパンツ一丁でベッドの上で茹だっている。

少しだけキャンパスの現状を嘆いている匂いを漂わせた後は、例の如く30近くもなって独身でいることを二人で嗤いながらも、どこかその特権を謳歌して楽しんでいるようでもあった。
僕は今年で28になり、パセリは今年で29。
僕の任地ではこの年になって結婚していない、子供がいないと不思議がられる。
下手したら少し蔑まされる。「その年で子供いないのっ!?」て。
あまり言われると僕も腹を立てて、
「お前らは産みすぎなんだよっ!ぽこぽこぽこぽこと、後先考えず。。。。」
って言い返してやるが到底勝てそうもない。
生物学的に見ても僕は負けだ。パセリも負けだ。ふふふ、負け組みだ。
南アでは子供を産むとそれに対してお金がもらえるようで、多く産んだほうがお金の面でも得だと考える人が多い。
でも一人を育てるには、貰える額以上に相当なお金や手間がかかることはあまり認識していないように見える。
だから子供は「放ったらかし法」により育てられることが多い。
親が子供と遊んでいるのは見たことがない。特に男性が子供と一緒にいるのは稀。
「放ったらかし法」なんていうと誤解を生むかもしれないけれど、日本やイギリス(チャーリーさんから聞いたので)のようには手厚く教育されないということだ。
あくまで放ったらかしというのは相対的なもので、日本やイギリスから見ればということだ。
でも考えようによっては、子供の早い時期から社会に放り出されるので逞しくはなる。

また家族構成にも問題があるのでは?と思う。
僕の学校で働いている女性は10人くらいいるけれども、少なくとも6人はシングルマザーだ。
いろいろな事情があって結婚できないのだが、それをここで書くと長くなるので後の記事に譲る。
こんな感じで結構父ちゃんがいない子供が多い。
さらに父ちゃんがいても出稼ぎ(都市へ)に行っていて殆ど会えない子供もいる。
もちろん日本においても片親だけでも立派に子育てしている方はいる。
片親で子育てするのが悪いのではない。
大多数がそれであることが社会として問題なのではないのか、と思う。

こんな話から、将来何人の嫁が欲しいか、という話題になった。
僕はもちろん一人で十分だが、パセリは3人欲しいという。
かつてこんなことを聞いたことがあった。
「一夫多妻制はフェアじゃないんじゃないの?あれは男の勝手だと思うんだが。。。」と。
でも彼はこう教えてくれた。
「この国は結婚できる男の数が少ないから、1対1で結婚していると結婚できない女性が生まれる。それじゃ可哀想じゃないか」
彼の言い分は、この国はお金がある男性しか結婚できないのでその結婚できる男が残りの女性を養う必要がある、ということだ。
古い伝統で結婚するときに女性側の両親に支払うロボラ(日本の結納金に当たる)がなかなか高い。
これは、女性側の家の格式や結婚暦の有無、教育レベル、処女かどうか、また男性側の収入などで決まる。
でもローンができるとムニシさんは言っていた。「俺は未だに嫁さんのロボラを払ってるんだ。」
パセリの言い分も大いに納得できる。
任地の空気として、女性の子供を産む喜びはとても大きいように感じる。
子供を生まないという選択肢もあるという、日本の価値観をなかなか理解してくれない。
子供を産むのは結婚しなくてもできるが、経済的にはやはり稼ぎ手がいたほうがいい。
そしたら一夫多妻であろうと構わないのかもしれない。
今度女性にも聞いてみよう。

それからパセリは自分の子供には、
公立の学校には行かせない。
私立に行かせる。
という。
自分のように大変な目には遭わせたくないのだそうだ。
日本でもちらほらとそういう声は聞かれるが、いまはまだ少数派であろう。
つまり日本では国の教育方針に大方満足しているといってよい。
でもこの国では違う。公立なんかに行かせられない。
なんと悲しい現実だろうか。でも周りを見ているとやはりその意見は正しいように思う。
日本の教育を何も考えずに享受してきたが、たくさん問題はあれど、本当に素晴らしいものだったのだなぁと思う。

それから最後にパセリに意地悪を言ってやった。
「でもお前さん良く考えよ、これからあんた大学で修士取るのに2年かかって、その後日本に行くんだろう?
そしたらお前さん、結婚して子供持つの何歳よ?それ南ア的にはアウトでしょ?ひひひ」
そしたら、
「おぉ、そうだ。んじゃぁ日本に行く前に結婚するよ。ところで日本はパップはあるんだっけ?」
いやぁこのくらい楽観的に生きていると、さすがの僕も勝てないな。