首都に上る

町の雰囲気はストライキの余韻を残しながらもずいぶんと回復してきた。
道路にばら撒かれていたゴミや石、大木などは道の脇に寄せられ、車も行き交うようになった。
学校はと言うといまだに生徒は殆ど来ておらず授業にならない。

そんな任地を後にして首都に向かった。
首都に行くにはまず州都であるネルスプリットにミニバスで出て、そこから長距離バスに乗る。
それに乗れば首都(プレトリア駅)まで一気に行ける。
そこから滞在するべきゲストハウスまではタクシーである。

距離にしたら350km、道もよく、日本であったら4時間くらいだろうか。
でもこっちでは10時間かかる。結構疲れる。
でもバスの中では眠れるのでまだいい。

バス会社からは出発の30分前には搭乗手続きを済ませてください。
と言われているのだが、出発時間が1時間過ぎてようやくやってくるのが常だ。
ネルスプリットに着いてバス事務所で「バスは時間通りかい?」と聞くと、
「十五分だけ遅れます」と言われる。「おぉ、すごい、たった十五分だけか!」と感心している自分に気付いて、
「日本で十五分遅れたらみんな怒っちゃうしバス会社も大慌てだろうなぁ」と一人ニヤニヤしてしまった。

でもさすがに1時間過ぎてやってこないと、客の中には「まだ来ないの?」と心配になる人も出てくる。
かくいう僕も「知らないうちに出発してたりしないよなぁ」と心配になってくる。
実際バスがやってきたとき係りの人からバスが来ましたという報告はなく、なんとなく周囲のざわめきから察知するしかなかった。

バスに乗り込んで一息つくと寝不足から睡魔が襲ってきた。
それも計算のうち・・・
南アの人が公の場所であまり居眠りをしているのを見たことがない。
寝転がっているのは見かけるが眠っていはいない。
授業中も聞いていない生徒はいても眠っている生徒はいない。
普段から人前で寝るのを避ける彼らの習慣なのかもしれない。
この辺の事情を考えると日本はなんて安全で長閑なのだとも思える。
でも南アでもバスと飛行機の中では安心して皆眠るのである。
バスと言っても長距離バスだけだ。ミニバスでは眠ってはいけない。
僕も初め眠っていたら何度か注意された。

首都に着く前にヨハネスブルクを通る。
夕暮れの空に向かって伸びる高いビルの足元に、灰色に汚れた路地が横たわる。
白やガラス張りの近代的な三次元構造の隙間に人々は生きている。
灰色の中に色を添えるのはその人々だ。
縦横無尽に動き、一目見ただけではその動きの法則を捉えられない。
東京のように人の流れが明確ではない。
一見カオスの中にもしばらく見ていると流れが見出せる、こともあるが稀だ。
世界一危ない町と呼ばれるが、バスが通る道はそうは見えない。
表面しか見られないことを残念に思う。